【老親扶養・連れ親】外国人の両親を日本へ呼び寄せ、共に暮らすための手法の検討
- 行政書士 日下 雄一朗
- 8月4日
- 読了時間: 11分

日本で働き、生活基盤を築かれた外国人の方々にとって、母国にお住まいのご両親の将来は大きな関心事の一つでしょう。「高齢になった両親を日本に呼び寄せ、近くで生活を支えたい」と考えるのは、子として当然の心情です。
しかし、日本の在留資格制度において、ご両親を呼び寄せるための専用の在留資格は、原則として存在しません。この事実は多くの方にとって厳しい現実として立ちはだかります。
なぜ、両親と日本で暮らすことは難しいのでしょうか。そして、その困難な状況の中で、実現の可能性を探る方法はあるのでしょうか。
本稿では行政書士の視点から、外国人のご両親を日本へ呼び寄せることの難しさの背景と、検討しうる具体的な方法、そしてそれぞれの手法に伴う要件や注意点について解説いたします。
目次
1.なぜ、ご両親と日本で暮らすことは難しいのか
そもそも、ご両親を日本に呼び寄せたいという切実な願いとは裏腹に、なぜそれが困難となっているのでしょうか。これには日本の在留制度と社会的背景が影響しているといわれています。
日本の制度は外国人が親族を招いて生活することを想定していない
大前提として、外国人の親と暮らす(扶養される)ための在留資格というものは、日本に存在しておりません。一般に外国人の方が家族と暮らす(扶養される)ための在留資格として「家族滞在」が存在しますが、この資格の対象者は「配偶者」と「子」に限定されており、両親や兄弟姉妹は対象外とされています。
また他国でみられる一定の貯蓄額や年金受給を前提とする、所謂リタイアメントビザというものも日本には存在しません。
このように日本の制度上、外国人が親族を招いて生活することが想定されておらず、これが外国人の方が日本に親族を招いて生活を行うことを困難にしている、根本的な理由となっています。
社会保障制度による財政的影響
それではなぜ日本には外国人の親と暮らすための制度が存在しないのでしょうか。その背景には、日本の社会保障制度に関する財政的な課題が深く関わっているといわれています。
日本は国民皆保険制度を採用しており、これは日本に在留する外国人の方も例外ではありません。
もし多くの日本に在留する外国人の方が高齢のご両親を呼び寄せた場合、医療費の増大により国の財政に影響を与える可能性が存在します。特にご両親が日本の年金制度や保険制度に長期間保険料を納めてこなかった場合、給付(医療・介護サービス)のみを受ける形となるため、制度の公平性や持続可能性の観点から、どうしても慎重にならざるを得ません 。
このような財政的リスクへの警戒感が、出入国在留管理庁が就労を目的としない高齢の親の受け入れに対して、人道的な配慮が必要な極めて例外的なケースを除き、外国人の親と暮らすための制度が存在しない背景であるといわれています。
2.在留資格「特定活動」による受入れ
上述の通り、日本の制度は外国人が親族を招いて生活することを想定しておりません。しかし全く道が閉ざされているかと問われればそういうわけでもなく、いくつかの手法が検討可能となっています。まずはじめに検討すべき手法が、在留資格「特定活動」による受け入れです。
「特定活動」とは、法務大臣が個々の外国人について特別な理由を考慮し、活動を指定して与える在留資格のことで、これには、あらかじめ定められた活動(告示特定活動)と、それ以外の特別な事情が認められるケース(告示外特定活動)があります。ここでは、主に検討される2つのケースについて解説します。
告示外特定活動(老親扶養)
1つ目は所謂「老親扶養」と呼ばれる特定活動です。これは人道的な観点から、特別な事情がある場合に限り、高齢の親を日本に呼び寄せて扶養することを認めるものです。
この特定活動は告示外特定活動に類型されるものであり、その許可要件について明示されておりません。また上述の通り、特別な事情がある場合に限り許可される在留資格であるため、許可件数も少なく、取得が非常に難しい在留資格であるといえます。
下記は過去の許可例から推定される実務上の要件となります。
カテゴリ | 項目 | 詳細 |
親の状況 | 高齢であること | 具体的な年齢は明示されていないものの、70歳以上が1つの基準であるといわれている。 |
母国に他の扶養義務者(実子など)がいないこと | 他に頼れる身内がおらず、日本の子が扶養する以外に選択肢がない状況であること。 | |
重い病気や障がいを抱えているなど、一人での生活が困難であること | - | |
日本にいる子(扶養者)の状況 | 相当の扶養能力があること | 安定した収入と資産があり、親を呼び寄せても生活に困窮しないことを客観的な資料で証明する必要がある。年収の目安は課税証明書等で安定的に500万円以上が望ましい。 |
身元保証人として、親の日本での一切の行動について責任を負えること | - | |
日本での在留状況が良好であること | 納税義務を果たし、法律を遵守していること。 |
補足事項:
これらの要件は一つでも欠けると許可は極めて難しくなります。
申請にあたっては、なぜ日本でなければならないのか、その必要性を詳細な理由書や客観的な証拠資料(医師の診断書、母国の公的機関の証明書など)をもって立証する必要があります。
上記の要件を全て満たしていたとしても、必ずしも許可されるというものではありません。
特定活動告示34号(高度専門職外国人又はその配偶者の親)
2つ目は在留資格「高度専門職」を前提とする特定活動です。日本の成長に貢献する優秀な人材を受け入れるため、「高度専門職」の在留資格を持つ外国人に対しては、一定の条件下で親の帯同を認める優遇措置が設けられています。
要件 | 内容 |
高度専門職の状況 | 世帯年収が800万円以上であること(本人と配偶者の年収を合算可能)。 |
呼び寄せる親の役割 | ①高度専門職本人またはその配偶者の7歳未満の子を養育すること。 ②高度専門職本人またはその配偶者で、妊娠中の者あるいは産前産後で援助が必要な者の介助、家事その他の必要な支援をを行うこと。 |
その他の条件 | ①高度専門職本人と同居すること。 ②呼び寄せることができるのは、本人または配偶者のどちらか一方の親に限られます。 |
補足事項:
「高度専門職」の在留資格を前提としているため、親族を呼ぼうとしている方の在留資格が「高度専門職」である必要があります(高度専門職に関してはこちらの記事をご参照ください)。
この制度は「老親扶養」とは異なり、子の養育や家事援助という明確な目的のために認められるものです。したがって、お子様がいない場合や、お子様が7歳以上の場合は対象外となります。
3.ご両親自身が「就労資格」を取得して来日する
次に、視点を変え、ご両親自身が日本で働くことを目的とした「就労資格」を取得する方法が考えられます。この場合、子の扶養を受けるのではなく、親自身が独立した主体として在留資格を得ることになります。
高齢者の就労の難しさ
基本的に就労資格そのものには、年齢による制限は存在しないため、要件を満たすのであれば手続上は申請が可能です。しかし申請を行うには、自身の持つ学歴や職歴を活かすことが出来る勤め先を確保する必要があります。
日本の定年は基本的に65歳(継続雇用制度等、会社により差異あり)であり、この年齢以上の方の就労は極めて難しいといえます。また65歳未満であったとしても、高齢者が新規に勤め先を探すというのは、日本人であっても相当に困難です。
それでは自身が会社を経営し、「経営・管理」の在留資格を取得する場合はどうなのかというと、「経営・管理」の場合、他の就労資格と異なり年齢により審査が厳しくなる傾向にある(事業継続性に疑義が生じる)ため、こちらも高齢者の場合は申請が難しいといえます。
もちろん、いずれの場合も年齢のみで条件を満たさなくなるというわけではありません。しかし、高齢になればなるほど難易度が上がってしまうのは事実です。
よってご両親自身が就労資格を取得して日本での生活を考えるのであれば、60歳までの比較的若い年齢のうちに日本に移住されるのが望ましいといえます。
4.在留資格「留学」の活用
もう一つの可能性として、ご両親が日本の教育機関に入学し、在留資格「留学」を取得する方法が考えられます。
所謂シニア留学と呼ばれるもので、日本語学校や専門学校、大学などの場合、その学校が禁止していない限り年齢に関係なく留学することが可能です。
この方法を選択する場合、日本語学校や専門学校、大学などに入学し、学生として日本に滞在することになります。しかし、この手法もまた、現実的には多くの困難が伴います。
項目 | 具体的な内容 |
学習意欲・必要性の証明 | なぜその年齢で、日本で学ばなければならないのか、その明確な理由と学習意欲を合理的に説明する必要があります。単に日本で暮らすための方便と見なされれば、許可は下りません。 |
経費支弁能力の証明 | 入学金や授業料、日本での生活費の全額を支弁できる十分な資産があることを証明しなければなりません。 |
出席率の維持 | 在留資格「留学」を維持するためには、原則として8割以上の高い出席率が求められます。健康上の理由などがあっても、これを下回ると在留資格の更新が不許可となるリスクがあります。 |
40~50代の比較的若年な方であれば現実性も帯びてきますが、60歳以上の高齢の方がこれらの条件をすべて満たし、学業に専念することは、体力面や環境への適応を考えても決して容易ではなく、現実的な選択肢とは言い難いかもしれません。また上記の要件を満たせたとしても、学校の卒業により在留資格が消失するため、家族との生活という本旨にはあまり適していないといえます。
5.検討が極めて困難または不可能な手法
稀にご相談頂きますが、検討が極めて困難な手法(あるいは行うべきではない手法)について解説いたします。
国際結婚:
大前提、日本では重婚が禁止されているため、ご両親が本国で婚姻関係にあるのであれば、国際結婚を行うことができません(民法732条)。また両親が離婚等により既に婚姻関係にない場合であっても、在留資格を目的として婚姻の意思なく婚姻届を提出することは、刑事罰に問われる可能性もある危険な行為です。確かに外国籍の方が日本人と婚姻関係にある場合、在留資格「日本人の配偶者等」の申請が可能となりますが、在留資格を取得するための手段として国際結婚を行おうとするのは、絶対に避けるべきであるといえます。
養子縁組:
日本の民法では、自分よりも年長者や、父母・祖父母などの尊属を養子とすることはできません(民法793条)。 また養子縁組により日本人の配偶者等の資格を申請する場合、認められるのは特別養子縁組という養子縁組の中でも要件の厳しいもののみとなっています。このことから少なくとも、親を日本に呼ぶためにこの手法を選択するのはあまりに現実的ではない(というより不可能)といえます。
6.まとめ
本稿で解説した通り、外国人のご両親を日本に呼び寄せて共に暮らすことは不可能ではないものの、制度上、決して簡単とはいえません。それぞれの方法に厳しい要件と高いハードルが存在します。
手法 | 主な要件・特徴 | 現実性 |
特定活動(老親扶養) | 人道上の特別な事情、親の状況、子の扶養能力が厳格に問われる。 | △(特別な事情がある場合に限り許可される在留資格であるため、許可件数も少なく、取得が非常に難しい) |
特定活動(高度人材の親) | 世帯年収800万円以上、7歳未満の子の養育等の目的が必要。 | 〇(高度専門職の資格を前提とし、かつ一定の制約が生じるものの、要件さえ満たせば極めて現実的な手法といえる) |
就労資格(経営・管理等) | 親自身が事業経営等を行う。資本金や事業計画、年齢が壁となる。 | 〇(資金面でのハードルは高いものの、60歳未満の方の経営管理による移住は比較的現実性があるといえる) |
留学 | 学習意欲の証明や出席率の維持、経費支弁の証明等。 | △(高齢者が留学をする場合、いくつか高いハードルが見受けられる。また要件を満たせたとしても、卒業により在留資格が消失するため、家族で暮らすという本旨には適さないといえる) |
国際結婚・養子縁組 | 虚偽申請のリスク、法律上の制約がある。 | ×(絶対に行うべきではない) |
どの方法がご自身の状況にとって最適(あるいは可能性があるか)を見極めるには、出入国在留管理法に関する深い知識と、個別の事情を正確に分析する専門的な視点が不可欠です。
ご自身で判断して申請準備を進めた結果、万が一不許可となってしまった場合、その後の再申請はさらに困難になる可能性があります。ご両親との日本での生活を真剣にお考えであるならば、まずは専門家にご相談いただくことが、夢を実現するための最も確実で安全な第一歩と言えるでしょう。
長後行政書士事務所では、相談者様一人ひとりの状況を丁寧に把握し、最適なアドバイスとサポートを提供することで、ご希望の実現に向けて全力でお手伝いさせて頂いております。初回相談は無料となっておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
参考:
出入国在留管理庁 在留資格「特定活動」:
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/designatedactivities.html
出入国在留管理庁 在留資格「高度専門職」(高度人材ポイント制):
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/designatedactivities02_00004.html
e-Gov法令検索 民法:
コメント