【永住許可申請】許可率推移と不許可事例、不許可にならないための対策
- 行政書士 日下 雄一朗
- 5月27日
- 読了時間: 9分
更新日:6月17日

日本の永住権取得を目指す在留外国人の方々にとって、永住許可申請の動向は極めて重要な関心事と拝察いたします。
本記事では、近年の永住許可申請における許可率の推移を概観し、残念ながら不許可となる主な原因とその具体的な対策、さらには許可率向上のために留意すべき点について、専門的な知見に基づき詳細に解説いたします。
目次
1. 永住許可申請の現状
永住権(在留資格 永住者)は、在留期限の更新手続きが不要となり、社会的な信用も高まるなど、日本で長期的に安定した生活を築く上で大きなメリットがあります。しかしながら、その審査は必ずしも容易ではなく、一定の要件を充足し、かつ個別の状況に応じた適切な申請準備が求められます。
近年、申請者数の増加や社会情勢の変化、審査運用の変更など、永住許可申請を取り巻く環境は大きく変動しており、その動向には注意が必要であるといえます。
2. 永住許可申請の許可率の推移
永住許可申請の許可率は、申請者の方々にとって最も気になる指標の一つかと存じます。「出入国管理統計 入国審査・在留資格審査・退去強制手続等(e-start)」から抜粋・集計したデータに基づき、近年の動向を見ていきましょう。
近年のデータから見る全体の傾向
「出入国管理統計 入国審査・在留資格審査・退去強制手続等(e-start)」によれば、永住許可申請の許可率は以下のように推移しています。
年 | 既済件数 | 許可数 | 不許可数 | 許可率 |
2021年 | 64,149件 | 36,691件 | 25,451件 | 約57.6% |
2022年 | 58,927件 | 37,992件 | 19,148件 | 約64.4% |
2023年 | 50,986件 | 33,470件 | 15,832件 | 約65.6% |
永住許可の許可率は年々上昇傾向にあり、2024年の初期予測ではさらなる上昇が見込まれています。ただし、上昇傾向にあってなお許可率は7割に満たないため、依然申請には入念な準備と対策が必要であるといえます。
入国管理局別の許可率について
許可率は、申請を管轄する地方出入国在留管理局によっても差異が見られることがあります。例えば、「出入国管理統計 入国審査・在留資格審査・退去強制手続等(e-start)」よると2023年の東京入管内の許可率は約71.1%と全国平均(約65.6%)を上回る結果となっていますが、同年の名古屋入管内の許可率は約59.0%と全国平均を下回る結果となっており、管轄ごとに差異があることがわかります。
3. 永住許可が得られない主な原因と不許可事例
具体的な不許可事例の分析
永住許可申請が不許可となるケースは、いくつかの傾向があるといえますが、特に法務省が公表している「永住許可に関するガイドライン」で示されている要件を満たしていない場合が主たる理由であるといえます。
以下に、実際に不許可となった事例から見られる主な原因を見てみましょう。
納税状況の問題(未納、滞納、申告漏れ):
住民税の未納期間があった。
所得税の申告漏れを税務署から指摘されたことがある。
納期限を大幅に過ぎてから納税した履歴が複数回あった。
公的年金・医療保険の加入・納付状況の問題:
国民年金に加入していなかった期間がある。
国民健康保険料の納付を長期間怠っていた。
会社員だが、社会保険の加入手続きが会社側で遅れていた期間があった(結果として自己の責任と見なされる場合がある)。
収入の不安定性・低さ:
年収が独立生計要件の目安とされる額に満たない年があった。
転職が多く、収入が安定しているとは言い難いと判断された。
個人事業主で、収入の変動が大きく、安定性に欠けると判断された。
交通違反・犯罪歴:
過去5年以内に複数回の交通違反(速度超過、駐車違反など)があり、素行善良要件に抵触すると判断された。
罰金刑以上の刑事罰を受けたことがある。
提出書類の不備・不整合:
必要な書類が不足していた。
提出した書類の内容に矛盾点や虚偽の疑いがあった。
翻訳文の精度が低く、内容が正確に伝わらなかった。
長期間の出国歴:
1回の出国が3ヶ月以上、または年間合計で100日以上の出国があり、日本での生活の基盤が不安定と見なされた(明確な日数基準があるわけではないが、目安として注意が必要)。
身元保証人の問題:
身元保証人が日本人もしくは永住者でなかった。
身元保証人の収入や納税状況に問題があった。
これらの事例から、永住許可申請においては、法律上の要件を正確に理解し、自身の状況を客観的に評価した上で、細心の注意を払って準備を進める必要があることがわかります。
近年の審査厳格化とその背景
2019年の「永住許可に関するガイドライン」の改訂以降、特に公的義務の履行(納税、年金・医療保険の納付)に関する審査が厳格化されたと言われています。これは、永住者として日本社会の構成員となる以上、社会保障制度への貢献を含め、公的責任をきちんと果たしている人物であることをより重視するようになったためと考えられます。
また、申請件数の増加傾向にあることも、審査期間の長期化や、より慎重な審査につながっている可能性があると示唆されています。
4. 不許可を回避し、許可率を高めるための具体的対策
永住許可申請で不許可となる事態を避け、許可の可能性を高めるためには、事前の入念な準備と対策が不可欠だといえます。
申請前の準備と自己点検の重要性
まず、申請に先立ち、法務省の「永住許可に関するガイドライン」を熟読し、求められる要件を正確に把握することが重要です。その上で、ご自身の状況がこれらの要件を充足しているか、客観的に点検する必要があります。
在留歴:
日本への上陸から現在までの在留歴を正確に確認し、原則10年(または特例期間)の継続在留、および就労資格等での5年以上の継続在留を満たしているか確認します。
収入状況:
過去3~5年分の課税証明書や納税証明書を取得し、年収が独立生計要件の目安を満たしているか、安定しているかを確認します。
納税状況:
過去5年間の所得税、住民税等の納税証明書を取得し、未納・滞納がないか、納期限内に納付しているかを確認します。
年金・医療保険:
直近2年間の年金および医療保険の加入状況・納付状況を示す書類(ねんきん定期便、国民年金保険料領収証書、健康保険被保険者証の写し、国民健康保険料納付証明書など)を準備し、未納・滞納・未加入期間がないか確認します。
交通違反・犯罪歴:
自身の記憶だけでなく、運転記録証明書などを取得して正確な状況を把握します。
出国日数:
パスポートの出入国記録を確認し、長期間の出国がないか確認します。
これらの自己点検で少しでも懸念点が見つかった場合は、すぐに申請するのではなく、問題点を解消するための期間を設けるか、専門家である行政書士に相談することを強く推奨します。
法律上の要件充足に向けた具体的な取り組み
安定した収入の確保と証明:
正社員として継続的に就労していることが望ましいですが、契約社員や派遣社員であっても、安定した収入と雇用契約の継続性を示せれば可能性があります。
個人事業主の場合は、確定申告書や事業計画書などで事業の安定性と将来性を具体的に説明する必要があります。
世帯収入で判断されるため、配偶者の収入も合算して考えることが重要です。
納税・公的年金・医療保険の適切な履行:
全ての税金、年金保険料、医療保険料について、納期限内に確実に納付することを徹底します。もし過去に未納や滞納があった場合は、速やかに解消し、その後一定期間、適正な履行実績を積み重ねることが重要です。
会社員の方も、給与明細や源泉徴収票で社会保険料が適切に控除されているか、会社が適切に納付手続きを行っているかを確認することが望ましいといえます。
交通違反・法令遵守の徹底:
日常生活において交通ルールを遵守し、軽微な違反もしないよう心がけましょう。万が一、違反を犯した場合は、速やかに反則金を納付するなどの対応を行う必要があります。
その他の法令違反(資格外活動など)がないよう、自身の在留資格で認められている活動範囲を正しく理解し、遵守する必要があります。
在留状況の継続性と安定性:
頻繁な転職や長期間の無職期間は、在留の安定性に疑念を抱かせる可能性があります。
日本での生活基盤が確立していることを示すため、不必要に長期間日本を離れることは避けるべきです。出国の必要性がある場合は、その理由や期間を合理的に説明できるようにしておくことが望ましいといえます。
提出書類の正確性と網羅性:
法務省のウェブサイトで最新の必要書類リストを確認し、漏れなく収集する必要があります。
記載内容に誤りや矛盾がないよう、細心の注意を払って作成・確認し、日本語以外の書類には、公的機関または信頼できる翻訳者による日本語訳を添付。
審査官に自身の状況を正確に理解してもらうため、必要に応じて補足資料を提出することも有効です。
身元保証人の選定と依頼:
身元保証人は、日本人または永住者で、安定した収入があり、公的義務を適正に履行している人物に依頼する必要があります。身元保証人には、身元保証書への署名・押印に加え、住民票や収入証明書、納税証明書などの提出も求められます。事前に依頼し、必要な協力を得られるようお願いしておくことが重要です。
申請理由書の重要性と記載内容:
永住許可を希望する理由、これまでの日本での生活状況、今後の日本への貢献などを具体的に記述する申請理由書は、審査において非常に重要な書類です。定型的な内容ではなく、ご自身の言葉で誠実に記載することが求められます。日本社会への定着性や貢献意思を具体的に示すエピソードなどを盛り込むと良いでしょう。
変化する審査基準への対応:
永住許可の審査基準や運用は、社会情勢の変化などに応じて見直されることがあります。常に最新の情報を収集し、適切な対応を心がける必要があります。
5. まとめ
日本の永住許可申請は、一定の条件を満たし、適切な準備を行えば、決して不可能な手続きではありません。しかしながら、近年の審査傾向を踏まえ、特に公的義務の履行や収入の安定性などについては、より一層の注意が必要です。
本記事で解説した許可率の動向、不許可となりやすい原因、そして具体的な対策を参考に、万全の準備で申請に臨んでいただければと存じます。ご自身での申請に不安を感じる場合や、より確実に許可を得たいとお考えの場合は、専門家である行政書士にご相談いただくことをお勧めいたします。
長後行政書士事務所では、永住許可申請に関する豊富な経験と実績に基づき、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適なサポートを提供しております。初回相談無料となっておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
参考:
法務省「永住許可に関するガイドライン」:
https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan50.html
出入国管理及び難民認定法 :
e-start「出入国管理統計 入国審査・在留資格審査・退去強制手続等」:
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