【令和7年10月16日施行】在留資格「経営・管理」の上陸基準省令等の改正概要と旧制度との比較
- 行政書士 日下 雄一朗

- 10月16日
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更新日:11月28日

令和7年(2025年)10月16日より、在留資格「経営・管理」の基準が大幅に改定されました。
本改訂では、最低資本金の引き上げ、常勤職員の雇用義務化、経営者個人の経験や日本語能力の要求など、多岐にわたる項目で要件が厳格化されています。この変更は、これから日本で起業を志す外国人の方々はもちろんのこと、既に「経営・管理」の在留資格で事業を営んでいる方々の在留期間更新にも大きな影響を及ぼすものです。
本記事では、行政書士としての専門的知見に基づき、今回の制度改正の具体的な内容を旧制度と比較しながら詳細に解説するとともに、その背景や目的、そして今後想定される影響について解説させて頂きます。
目次
1.制度改正の経緯と趣旨
外国人人口比率の上昇に伴う様々な問題が取り沙汰される昨今、日本の経営管理ビザは、米国をはじめとした他国と比較して取得が容易であったために、制度の趣旨から外れた移住目的の不正利用が問題視されていました。
近年では特に民泊経営を口実とした移住目的の経営管理ビザ取得が増加の傾向にあり、「高額医療をタダ同然で受けられる」と他国で宣伝されるなど、制度の持続を揺るがす可能性についても言及がなされています。
上記の経緯から、本改正では下記2点を趣旨とした制度改正が行われています。
制度の趣旨を外れた移住目的の不正利用抑制
旧制度が一部で不正利用されていた実態への対応です。比較的低い資本金要件(500万円)が、事業経営ではなく日本での居住を主目的とする個人の「抜け道」として悪用されるケースや、事業実態のないペーパーカンパニーの設立が問題視されていました。今回の改正は、このような不正を費用面・手続き面の両面で厳格化し、在留資格制度全体の健全性を回復することを目的としています。
国際基準との整合性と質の高い経営者の誘致
旧制度の資本金要件は、他の先進諸国と比較して著しく低く、これが「安価なビザ」との見方を招く一因となっていました。資本金要件を3,000万円に引き上げ、経営者個人の資質を問うことで、グローバルな人材獲得競争において他国と基準を揃えることを目的としています。
2.改正概要と旧制度との比較

出入国在留管理庁「「経営・管理」許可基準に係る見直しについて」:https://www.moj.go.jp/isa/content/001448231.pdf
資本金・出資総額の要件が500万円から3,000万円へ引き上げ
最低資本金または出資総額は、従来の6倍となる3,000万円へと大幅に引き上げられました。 この金額は、米国や韓国など主要先進国の同様のビザ制度を意識した水準であり、国際基準に整合させ、不正利用を抑制しようという意図が明確に見て取れます。
経営者の経営経験・学歴要件の新設
新制度では、事業体そのものの規模だけでなく、経営者個人の資質を直接問う要件が初めて導入されました。これにより、審査の焦点が「事業の箱」から「経営者本人」の能力や経歴にも及ぶこととなります。
申請者は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
経営管理又は申請に係る事業の業務に必要な技術又は知識に係る分野に関する博士、修士若しくは専門職の学位
事業の経営又は管理について3年以上の職歴
常勤職員の雇用が必須要件に
旧制度では資本金の代替要件であった常勤職員の雇用が、新制度では必須要件へと変わりました。申請者(経営者)本人とは別に、1名以上の常勤職員を雇用することが新たに義務付けられます。
ここで定義される「常勤職員」は、以下のいずれかに該当する者に限定されます。
【常勤職員に該当する者】
日本人
特別永住者
在留資格「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」を有する外国人
重要な点は、「技術・人文知識・国際業務」などの就労系在留資格で在留する外国人は、この雇用義務を満たすための常勤職員には含まれないという点です。これは、申請者の事業が日本国内の安定した雇用基盤に貢献することを要求するものであるといえます。
日本語能力要件の新設
新たに日本語能力に関する要件も導入されました。
申請者本人または常勤職員のいずれかが、「相当程度の日本語能力」を有することが求められます。この能力は、欧州言語共通参照枠(CEFR)のB2レベル以上と定義され、具体的には以下のいずれかによって証明されます。
【日本語能力の証明】
日本語能力試験(JLPT)でN2以上の認定を受けていること
BJTビジネス日本語能力テストで400点以上を取得していること
20年以上、日本に在留していること
日本の大学等を卒業しているか、または日本で義務教育を修了し、高等学校を卒業していること
注目すべきは、この言語能力要件を満たすための「常勤職員」の定義です。前述の雇用義務(必須要件)とは異なり、こちらでは「技術・人文知識・国際業務」などの就労系在留資格で在留する外国人も常勤職員として認められます。
専門家による事業計画の確認義務化
架空の事業計画や在留資格取得のみを目的とした申請を排除するため、専門家による事業計画の確認が義務化されました。
提出する事業計画書について、その具体性、合理性、実現可能性を評価するものとして、「経営に関する専門的な知識を有する者」による確認を受けることが義務付けられます。 現時点では、この専門家として以下の者が挙げられています。
【経営に関する専門的な知識を有する者】
中小企業診断士
公認会計士
税理士
事業所要件の厳格化
改正後の規模に応じた経営活動を行うための事業所を確保する必要があることから、事業所要件がより厳格化されました。旧制度では一定の条件下で認められる余地があった自宅兼事務所は、新制度では原則として認められません。
3.改正がもたらす影響と経過措置について
これから「経営・管理」の取得を目指す方への影響
言うまでもなく、新規申請者にとって参入のハードルは劇的に高まりました。特に、自己資金が潤沢ではないものの、革新的なアイデアを持つ若手の創業者や、経営経験が3年に満たない方にとっては、直接「経営・管理」ビザを目指すことが極めて困難になったといえます。
また資金面の条件をクリア出来る場合であっても、安定した経営が望めることを証明できる事業計画の策定や日本語能力要件を満たす常勤職員の採用など、申請のかなり早い段階から準備を進める必要ができたといえます。
既に「経営・管理」で在留されている方への影響と経過措置について
既に「経営・管理」ビザで在留している方も今回の改正と無関係ではありません。在留期間更新の際には新基準への適合が求められることになります。
ただし今回の改正には、既存の在留資格保有者に対する配慮として、施行日から3年間(令和10年10月15日まで)の経過措置期間が設けられています。この期間中に行う更新申請については、直ちに新基準を満たしていなくても、経営状況や将来的に新基準に適合する見込みなどを踏まえ、総合的に許否が判断されます。
また、経過措置期間が終了する令和10年10月16日以降の更新申請は、原則として新基準を満たす必要がありますが、
経営状況が良好である
法人税等の納税義務を適切に履行している
次回更新時までに新基準を満たす見込みがある
といった条件を全て満たす場合には、その他の在留状況を総合的に考慮し、例外的に許可される可能性が残されています。
なお、この配慮はあくまで例外的なものであるため、要件を満たす場合であっても、税金や社会保険料の完璧な納付記録はもちろんのこと、新基準達成に向けた具体的な計画を専門家の評価を交えて示すなど、より一層の立証努力が重要になることが推測されます。
4.まとめ
在留資格「経営・管理」に関する令和7年10月16日からの制度改正は、日本の外国人起業家受け入れ政策における大きな転換点であるといえます。
制度は、門戸の広さを重視する方針から、外国人受入にかかる秩序と共生のバランスを重視する方針へと舵を切りました。
これに伴い、新規申請を目指す方は綿密な事前準備が不可欠になり、既に在留中の方は新基準への適合に向けた戦略的な事業拡大が急務であるといえます。
長後行政書士事務所では、相談者様一人ひとりの状況を丁寧に把握し、最適なアドバイスとサポートを提供することで、目標達成に向けて全力でお手伝いさせて頂いております。初回相談無料となっておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
参考:
出入国在留管理庁「「経営・管理」の許可基準の改正等について(改正に関するガイドライン)」:
出入国在留管理庁「「経営・管理」許可基準に係る見直しについて」:https://www.moj.go.jp/isa/content/001448231.pdf



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