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【退去強制】出国命令制度とは? その概要、要件、退去強制手続との違いを網羅的に解説

  • 執筆者の写真: 行政書士 日下 雄一朗
    行政書士 日下 雄一朗
  • 7月9日
  • 読了時間: 8分
地球儀

日本に在留されている外国人の方にとって、「出国命令」や「退去強制」といった言葉は、非常に重く、不安を掻き立てるものでしょう。意図せず在留期間を超えてしまった(オーバーステイ)、あるいは意図せず法律に抵触してしまった場合に、自身の将来がどうなるのか、再び日本で生活や仕事をすることは可能なのか、多くの疑問が浮かぶことと存じます。


本記事では、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」といいます。)に定められる「出国命令制度」を中心に、より重い処分である「退去強制」との違い、出国命令制度を活用するための具体的な要件、それぞれの措置が採られた場合における上陸拒否期間等について解説させて頂きます。


目次


1.出国命令制度とは?


出国命令制度とは、入管法に違反した外国人のうち、一定の要件を満たす者に対して、身柄を収容することなく、簡易な手続きで自主的に出国させる制度です。

この制度は、平成16年の入管法改正により導入されました。目的は、不法残留状態になってしまった在留外国人に対し、退去強制という厳しい処分を科すのではなく、より温情的な措置を講じることにより自発的な出頭を促進する、というところにあります。

具体的には、オーバーステイ(不法残留)などの退去強制事由に該当する外国人が、摘発される前に自ら地方出入国在留管理官署(以下「入管」といいます。)に出頭した場合などに適用されます。



2.「出国命令」と「退去強制」の違いについて

「出国命令」と「退去強制(一般的に「強制退去」とも呼ばれます)」は、どちらも日本から出国を求める処分ですが、その性質や本人に与える影響には差異が存在します。

出国命令と退去強制の比較

比較項目

出国命令

退去強制

根拠条文

入管法第24条の3

入管法第24条

対象者

・不法残留者で、一定の要件を満たし、自ら出頭した者又は、本邦から出国する意思がある旨を表明した者

不法残留、不法入国、資格外活動違反、犯罪行為など、広範な退去強制事由に該当する者

身柄の収容

原則として収容されない

原則として収容される

出国までの期間

出国命令書交付の日から15日を超えない範囲で猶予が与えられる

速やかに送還される

上陸拒否期間(再入国禁止期間)

原則として1年間(一部要件に該当する場合は5年間)

原則として5年間または10年間、無期限の場合もある

上記の通り、出国命令は「自主的な出国を促す、比較的温情的な措置」であるのに対し、退去強制は「国の意思で強制的に国外へ排除する、厳しい処分」であるといえます。

特に大きな差異が「身柄の収容」と「上陸拒否期間」です。出国命令の場合、原則として収容されずに手続きが進み、出国後の上陸拒否期間も1年と短縮されます。一方で退去強制となると、原則として入管の収容施設に身柄を収容され、日本を離れた後も最低5年間は再入国が認められないという、非常に重い結果を招きます。



3.出国命令制度の対象となる具体的要件

出国命令制度は、オーバーステイ状態にある全ての外国人に適用されるわけではありません。この制度を対象となるには、以下の全ての要件を満たす必要があります。


  • 違反調査の開始前に速やかに出国する意思をもって自ら入管に出頭したこと、又は入国審査官による認定通知書を受ける前に入管に対して速やかに出国する意思がある旨を表明したこと

    • 改正前は違反調査前に出頭することが求められていましたが、現在は違反調査後であっても、認定通知書を受ける前に出国意思を表明すれば要件を満たすことができます。


  • 不法残留(オーバーステイ)以外の退去強制事由に該当しないこと

    • 退去強制の事由が薬物犯罪や売春関連の犯罪であるといった場合は、出国命令制度の対象となりません。純粋なオーバーステイであることが求められます。


  • 窃盗罪等の一定の罪により懲役又は禁錮に処せられたものでないこと

    • 過去の犯罪歴についても審査の対象となります。


  • 過去に退去強制されたこと、又は出国命令を受けて出国したことがないこと

    • 過去に退去強制を受けた場合はもちろんのこと、過去に出国命令を受けて出国したことがある場合も対象外となります。


  • 速やかに出国することが確実と見込まれること

    • 帰りの航空券を自身で確保できる資力があるか、または身元引受人等により出国が保証されている状態であることが求められます。


これらの要件を一つでも満たさない場合は、出国命令制度の対象とはならず、原則として退去強制の手続きに進むことになります。



4.出国命令の手続きの流れ

自ら出頭してから出国するまでの大まかな流れは以下の通りです。


Step1:地方出入国在留管理官署への出頭(出頭申告)

まず、ご自身の居住地を管轄する地方出入国在留管理官署へ、パスポート(失効している場合でも持参)、在留カード(所持している場合)を持参の上、出頭します。この際、「出国命令制度を利用して自主的に出国したい」という意思を明確に伝えることが重要です。


Step2:入国警備官による違反調査

出頭後、入国警備官による事情聴取が行われます。ここでは、いつから、どのような経緯でオーバーステイに至ったのか、日本での生活状況、犯罪歴の有無などについて詳細に質問されます。正直に、かつ正確に事実を述べることが肝要です。


Step3:入国審査官による違反審査

入国警備官が作成した違反調査調書に基づき、入国審査官が出国命令の要件に該当するかどうかの審査を行います。この審査の結果、要件を満たすと判断されれば出国命令の手続きに、満たさないと判断されれば退去強制の手続きに移行します。


Step4:出国命令書の交付

入国審査官による審査の結果、出国命令の要件を満たすと判断されると、「出国命令書」が交付されます。なお出国命令書の交付に際して、住居及び行動範囲の制限その他必要と認める条件等が付される可能性があります。


Step5:出国

出国命令書に記載された期限までに、自費で航空券等を手配し出国します。



5.出国命令に従わない場合のリスク

出国命令制度は、自主的な出国を前提とした温情的な措置です。したがって、この命令に従わない場合は、相応のペナルティが科せられます。

具体的には、以下のような事態に陥ります。


  1. 出国命令の取消し:

    指定された出国期限までに出国しなかった場合、出国命令は取り消されます。


  2. 退去強制手続への移行:

    出国命令が取り消されると、直ちに退去強制の手続きに移行します。


  3. 刑事罰の対象:

    逃亡したり、住居の制限等に違反したりした場合、刑事罰対象となる可能性があります。


  4. 収容:

    退去強制手続に移行するため、原則として身柄を収容されます。


  5. 上陸拒否期間の伸長:

    退去強制されることになるため、再入国できない期間が原則5年間以上に伸長します。


せっかく与えられた温情的な措置を無にしないためにも、出国命令書が交付された場合は、記載された条件を厳格に遵守し、期限内に出国するのが無難であるといえます。



6.出国後の再入国(上陸)はいつから可能か?

出国命令と退去強制では、日本へ再び入国できるまでの期間(上陸拒否期間)が異なります。


出国命令制度により出国した場合

出国命令を受けて期限内に出国した場合における上陸拒否期間は、原則として出国した日から1年間となります。また違反調査後に出国する意思を表明した場合は、短期滞在の在留資格での入国のみ、5年間制限されます。

これは、退去強制による制限と比較して、短い制限期間であり、将来的に日本との関係を維持したい方にとって、非常に大きなメリットと言えます。


退去強制により出国した場合

一方、退去強制された場合の上陸拒否期間は、その理由によって異なり、より長期間となります。


入国拒否期間とその主なケース

上陸拒否期間

主な該当ケース

5年間

・通常の退去強制(オーバーステイで摘発された場合など)

10年間

・過去に日本から退去強制されたことがある者 (いわゆるリピーター)

無期限


・日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、1年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことがある者

・薬物、大麻、向精神薬、あへんなどの取締りに関する法令に違反して有罪判決を受けた者

このように、退去強制処分を受けると、最低でも5年間は日本への扉が閉ざされてしまうため、自ら出頭するか、摘発されるかで、その後の人生設計が大きく変わることになるといえます。



7.まとめ

本記事では、「出国命令」制度を中心に、退去強制との違いや手続きの流れ、そして再入国までの期間について詳しく解説しました。

重要な点を再度まとめます。


  • 出国命令は、オーバーステイ等の違反者が自ら出頭した場合に適用される温情的な措置である。

  • 原則として身柄は収容されず、出国後の上陸拒否期間も原則1年と短い。

  • 一方、退去強制は、摘発された場合などに適用される厳しい処分であり、原則収容され、上陸拒否期間も5年以上となる。

  • 退去強制ではなく出国命令とするには、自主的な出頭等を含む複数の要件を満たす必要がある。


ご自身の在留状況に関して少しでも不安な点や疑問点がございましたら、決して一人で悩まず、専門家にご相談ください。


長後行政書士事務所では、相談者様一人ひとりの状況を丁寧に把握し、最適なアドバイスとサポートを提供することで、目標達成に向けて全力でお手伝いさせて頂いております。初回相談無料となっておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。


参考:

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