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【帰化申請】許可率推移と不許可事例、不許可にならないための対策

  • 執筆者の写真: 行政書士 日下 雄一朗
    行政書士 日下 雄一朗
  • 8月20日
  • 読了時間: 10分

更新日:11月28日

グラフをみる男性

日本の社会や文化に深く根差し、将来にわたってこの国で生活を築いていくことを決意された外国人の方々にとって、「帰化申請」は人生における非常に大きな決断の一つと拝察いたします。日本国籍を取得し、日本人として生きていくためのこの手続きは、相応の覚悟と入念な準備を要するものです。


本記事では、帰化申請の動向を客観的なデータに基づいて解説するとともに、残念ながら不許可となる主な原因とその具体的な対策、そして許可を得るために留意すべき点について、専門的な知見から詳細に解説いたします。


目次


1.帰化申請(日本国籍取得)の現状

帰化とは何か:法的な定義と意義

帰化とは、外国人が日本の国籍を取得し、法的に日本人となるための手続きを指します。これは単に在留資格を得ることとは根本的に異なり、元の国籍を原則として離脱し、日本の国民としての権利(選挙権など)を得るとともに、義務(納税など)を負うことを意味します。まさに、人生の大きな転換点となる手続きであるといえます。


近年の帰化申請を取り巻く環境

近年、日本に在留する外国人の数は増加・多様化の一途をたどっており、それに伴い、帰化を希望する方々の背景も大きく変化しています。歴史的には韓国・朝鮮籍や中国籍の方が多数を占めていましたが、昨今では東南アジア諸国をはじめ、さまざまな国籍の方々が日本国籍を取得するケースが増加の傾向にあります。



2.帰化申請の許可率の推移

帰化申請を検討する上で、許可率の動向は最も気になる指標の一つかと存じます。法務省が公表する統計データに基づき、近年の動向を見ていきましょう。


近年のデータから見る全体の傾向

法務省の統計によれば、直近3年間(2022年~2024年)の帰化申請者数および許可者数は以下の通り推移しています。

年度

申請者数

許可者数

不許可者数

許可率

2022年

9,023人

7,059人

686人

91.1%

2023年

9,836人

8,800人

813人

91.5%

2034年

12,248人

8,863人

639人

93.2%

出典: 帰化許可申請者数、帰化許可者数及び帰化不許可者数の推移(法務省民事局) に基づき作成


表の通り、各年の許可率を算出すると、一貫して90%を超える高い水準で安定していることがわかります 。この数字だけを見ると、帰化は非常に認められやすい手続きであるかのような印象を受けるかもしれません。しかし、この点には慎重な解釈が必要です。



許可率の裏に隠れる、日本の帰化制度の構造的特徴

この90%超という高い許可率のみをもって、帰化の要件が緩やかであると判断するのは些か早計であるといえます。なぜなら、この数値の裏には日本の帰化制度が持つ構造的な特徴が存在しているためです。


法務局では、正式な申請書類が受理される前に、担当官による詳細な事前相談が複数回行われます 。この事前相談の段階で、国籍法が定める厳格な要件(後述)を満たしていないと判断される候補者は、要件を満たすまで申請を見送るよう助言(あるいは申請拒否)されます。


つまり、正式な申請受理に至るまでに極めて効果的なスクリーニングが行われており、許可の見込みが高いと判断された候補者のみが申請段階に進んでいるのです。したがって、90%超という許可率は、審査基準によるものだけではなく、この 事前フィルタリングの影響を受けていると解釈する必要があるといえます 。



3.帰化が許可されない主な原因と不許可事例

高い許可率の背景にある厳格な要件について、具体的に見ていきましょう。申請が受理されたにも関わらず、不許可となるケースは、主に国籍法で定められた要件を満たしていないことが原因であるといえます。


国籍法に定められた帰化の要件

帰化の許可を得るためには、以下の7つの基本要件をすべて満たす必要があります。

  1. 居住要件(住所要件):

    原則として、申請時まで継続して5年以上、日本に住所(生活の本拠)を有していることが必要です。この「引き続き」とは、中断がないことを意味し、長期の出国(おおむね年間100日以上、または1回の出国で3ヶ月以上)があると、継続性が途切れたと判断される可能性があります。また在留期間のうち、3年間は適切な在留資格でもって就労、納税等を行っている必要があるので、注意が必要です。


  2. 能力要件(年齢要件):

    申請時に18歳以上であり、かつ、母国の法律でも成人に達していることが求められます。なおこの要件について、親と一緒に申請する場合や、親が日本人である場合等に要件が緩和される場合があります。


  3. 素行要件:

    素行が善良であることが求められます。これは納税、年金・医療保険料の納付といった公的義務の履行状況、交通違反歴や犯罪歴などが総合的に審査される、非常に重要な要件です。


  4. 生計要件

    自己又は生計をーにする配偶者その他の親族の資産又は技能によって生計を営むことができることが求められます。申請者自身または家族の収入で、安定した生活が送れるかが問われます。


  5. 重国籍防止要件: 

    帰化によって日本国籍を取得する際には、原則として元の国籍を放棄することが求められます。日本は原則として二重国籍を認めていないためです。


  6. 憲法遵守要件: 

    日本国憲法を遵守し、暴力的な破壊活動等を行わないことが求められます。


  7. 日本語能力:

    明文規定はありませんが、小学校中学年程度の日本語の読み書き・会話能力が事実上求められます。審査官との面接や書類作成を通じて、この能力が確認されます。



具体的な不許可事例の分析

以下に、実際に不許可となった事例から見られる主な理由を見てみましょう。

  • 素行要件に関する問題

    • 納税・公的年金の未納:住民税や所得税の未納・滞納がある。国民年金や国民健康保険に加入すべき期間に未加入・未納であった期間が存在する。

    • 交通違反:過去5年間で駐車違反や速度超過などの違反が複数回ある。特に、免許停止処分を受けたことがある場合は、素行善良とは言い難いと判断される可能性が高まります。

    • 犯罪歴:罰金刑以上の刑事罰を受けたことがある場合、帰化は極めて困難となります。


  • 生計要件に関する問題

    • 収入の不安定性:年収が低い、または転職を繰り返しており、収入が安定しない。個人事業主で年度ごとの収入の変動が大きく、将来的な安定性が見込めない。

    • 公的扶助:生活保護を受給している場合、独立して生計を立てているとは見なされません。


  • 居住要件に関する問題

    • 長期間の出国:継続して5年間日本に居住している間に、1回の出国が3ヶ月以上に及んだり、年間の合計出国日数が100日を超えたりする年が複数あり、生活の基盤が日本にあるとはいえない。


  • 提出書類の不備・不整合

    • 本国から取り寄せるべき書類が不足している。

    • 申請書や動機書に記載した内容と、提出した証明書類の内容に矛盾がある。

    • 虚偽の記載が発覚した場合、不許可となるだけでなく、将来の再申請にも重大な影響を及ぼします。



4.永住許可との統計上の差異

日本での長期的な定住を考える際、帰化と並行して検討されるのが「永住許可」です。両者は似て非なる制度であり、その違いは許可率にも顕著に表れています。


統計データ(許可率・許可数)から見る選択の傾向

両制度の統計は、非常に対照的な傾向を示しています。

制度

2023年度 許可率

2023年度 許可者数

帰化

91.5%

8,800人

永住許可

65.6%

33,470人

出典: 帰化許可申請者数、帰化許可者数及び帰化不許可者数の推移(法務省民事局) に基づき作成。永住許可の許可率・許可者数についてはこちらの記事を参照。


上記のように許可率と許可件数が逆相関関係となっており、両制度の性質の違いを示しているといえます。帰化は、前述の通り厳格な事前スクリーニングを経た、少数の人が申請するため許可者数に反して許可率が高い傾向にあります 。一方、永住許可には事前のスクリーニングがないため、納税や年収といった客観的基準を満たせない申請者が多く、許可率が低くなる傾向にあるといえます 。



5.不許可を回避し、許可を得るための具体的対策

帰化許可という高い目標を達成するためには、事前の入念な準備と対策が不可欠です。


申請前の準備と自己点検の重要性

まずは自身の状況が国籍法の要件を充足しているか、客観的に点検する必要があります。

  • 在留歴の確認:

    パスポートの出入国スタンプをすべて確認し、継続して5年以上日本に在留しているか、年間の出国日数が多くないかを精査します。


  • 公的義務の履行状況の確認:

    過去3~5年分の課税証明書・納税証明書、直近2年間の年金・医療保険の納付証明書などを取得し、未納・滞納がないか、納付期限を守っているかを徹底的に確認します。


  • 交通違反歴の確認:

    自動車安全運転センターから運転記録証明書(過去5年間)を取得し、違反の回数や内容を正確に把握します。


  • 収入状況の確認:

    過去数年分の収入が、安定して生計を維持できる水準にあるかを確認します。


これらの自己点検で少しでも懸念点が見つかった場合は、すぐに申請するのではなく、問題点を解消し、クリーンな実績を積み重ねる期間を設けることが賢明であるといえます。


法律上の各要件充足に向けた具体的な取り組み

  • 安定した収入の確保と証明

    正社員として継続的に勤務していることが望ましいといえます。契約社員や個人事業主であっても申請は可能ですが、この場合は安定性と将来性を客観的な資料(確定申告書、事業計画書など)に基づき具体的に説明することが求められます。


  • 公的義務の完全な履行

    税金や年金、保険料は未払いが存在しないことはもちろんのこと、納期限内に遅れることなく納付していることが求められます。万が一、過去に滞納があった場合は、速やかに完納し、その後最低でも1~2年は適正な納付実績を積み重ねることが無難です。


  • 法令遵守の徹底:

    交通違反をしないことはもちろん、在留資格で認められた活動範囲を逸脱するような行為(資格外活動など)は厳に慎む必要があります。


動機書の重要性と記載内容

帰化申請では、「帰化の動機書」という書類を提出します。これは、なぜ日本人になりたいのか、日本人になって何をしたいのかを自身の言葉で綴る重要な書類です。定型的な文章ではなく、日本社会への定着性や貢献の意思が伝わるよう、これまでの経験や将来の展望を具体的に、誠実に記述することが審査官の心証に良い影響を与えます。


法務局との事前相談の活用

前述の通り、帰化手続きは法務局での事前相談から始まります。この相談は、申請の可否を判断する実質的な審査の第一歩です。担当官の指示を真摯に受け止め、求められた書類を正確に準備し、自身の状況を正直に説明することが、円滑な申請への鍵といえます。



6.まとめ

日本の帰化申請は、統計上の許可率が90%を超える一方で、その背景には法務局による厳格な事前スクリーニングと、国籍法が定める厳しい要件が存在します。特に、素行要件(納税・年金など)や生計要件、そして長期間にわたる居住実績は厳しく審査されます。

安易に申請に臨むのではなく、まずはご自身の状況が法律上の要件を満たしているかを客観的に見極め、懸念点があればそれを解消するための準備期間を設けることが、許可への確実な一歩となります。また、類似する制度である永住許可との違いを正しく理解し、ご自身の人生設計にどちらが本当に適しているのかを熟考することも不可欠です。


長後行政書士事務所では、相談者様一人ひとりの状況を丁寧に把握し、最適なアドバイスとサポートを提供することで、帰化許可という目標達成に向けて全力でお手伝いさせて頂いております。初回相談無料となっておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。


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参考:

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